読売新聞 2008年9月5日 中国製の義歯輸入急増、歯科技工士81人が国相手に訴訟
中国製の入れ歯や差し歯などの「義歯」を巡り、全国の歯科技工士81人が、国を相手取り、海外への義歯製作の委託禁止などを求める訴訟を東京地裁に起こしている。
国内では、義歯を製作できるのは歯科医と歯科技工士に限られているが、海外品については規定がない。国は「歯科医が安全と判断すれば輸入は自由」との姿勢だが、技工士側は「無資格者が作っており、放置すれば健康被害を招く恐れがある」と猛反発している。
入れ歯や差し歯、欠けた歯へのかぶせ物などは通常、歯科医が個々の患者の歯型や体質に合わせ、歯科技工士に指示して一つずつ作らせる。歯科技工士は国家資格。無資格者の義歯製作は歯科技工士法で禁じられており、違反すると懲役1年以下の罰則もある。
一方、訴状などによると、近年、主に中国から輸入された義歯が医療現場に浸透。日本の歯科医の指示を中国の技工所に伝え、製作された義歯を輸入する業者も現れた。医療保険は適用されないが、値段は日本で作ったものの半額から3分の1程度。近年、歯科医間の過当競争が進んでいることから、コストダウンを図るための需要は多いとみられ、全国保険医団体連合会が7月に緊急調査したところ、全国2008か所の歯科診療所のうち130か所が「海外発注の経験あり」と回答した。
訴訟で原告側は「義歯製作が厳しく規制されているのは、人の口の中に入れるものだけに安全性を確保する必要があるため。海外なら無資格者がどんな材料を使って作ってもいい、というのでは法律の趣旨に反する」と主張。厚生労働省歯科保健課は「安全性は歯科医が責任を持って判断できるし、海外製義歯の危険が具体的に明らかになった例もない」と反論する。
同省は2005年、「海外品は材料の性状が明確ではない」として、患者に材料などを説明し、同意を得て使うよう求める通達を出した。年度内に海外製義歯に関する研究班を設置し、実態を調べる予定だが、原告代表の歯科技工士、脇本征男さん(66)は「何のために歯科技工士という国家資格があるのか。患者への危険が明らかになってからでは遅い」と話す。
一方、中国製の義歯を積極的に取り入れている歯科医からは異論もある。名古屋市の歯科医、篠田鉄郎さん(51)は05年から広東省の大型技工所と取引を始めた。これまでに数百人の義歯製作を委託し、患者には中国製であることを説明しているという。
「中国製といっても材料は欧米のもので、すべて粗悪品というのは偏見。日本の腕のいい技工士の製品と質は変わらない」と話す篠田さんだが、一方で「中国には質の低い技工所があるのは確からしい。国は裁判を機に、何らかの規制を設ける必要があるだろう」とも指摘している。判決は26日に言い渡される。
(2008年9月5日 読売新聞より)
中国製歯科技工物
- 海外委託技工 (2009年3月16日 静岡新聞)
- 入れ歯に中国製品増加…患者9割「知らない」 (2009年3月16日 北海道新聞 社会第2欄)
- 仙台市議、海外技工の意見書記事(2008年12月25日 日刊歯科通信)
- 中国製の義歯輸入急増、歯科技工士81人が国相手に訴訟(2008年9月5日 読売新聞より)
- アラブ首長国連邦の歯科用品の直輸入を禁止(2008年6月22日)
- 中国からの安い歯科クラウンは、危険なレベルの鉛を含んでいるかも。(2008年6月22日)
- 国外で作成された歯科補てつ物等の取り扱いに関する意見書(2008年6月11日 札幌市議会)
- 中国製歯科技工物 米で鉛検出。製作情報「法制化を」(2008年3月21日 日刊県民福井)
- 中国製歯科技工物 米で鉛検出(2008年3月16日 東京新聞)
- 中国製修復物から鉛 米国歯科技工所協会が会員に通知(2008年3月4日 東京新聞)
- 歯科技工物の海外委託 国に損害賠償請求へ(日本歯科新聞より)
- 入れ歯の中国委託の問題